今回は7歳のイタリアングレーハウンド(去勢オス、体重4.75kg)の症例をご紹介します。
約1年前から口臭がみられており、ここ3か月ほどでさらに悪化してきたこと、また歯磨き中に右側から出血がみられることを主訴に来院されました。ご自宅では、なかなか歯磨きをさせてくれない中でも、週1回ガーゼによる口腔ケアを行っていました。
歯科検診
初回の歯科検診では、口唇をめくって歯を確認するだけでも、特に右側で顎がガクガクと震え、強い痛みが疑われる状態でした。口腔内では重度の歯周病が進行しており、歯肉には強い発赤がみられ、ただれや出血を伴う部位も認められました。所見からは慢性潰瘍性歯周口内炎が強く疑われ、治療のためにはSRPだけでなく、多数の抜歯(この時点で24本)が必要と判断されました。
麻酔下検査・治療
麻酔下で精査したところ、潰瘍性口内炎はあるものの、全体的に歯肉退縮および骨吸収が進行し、多くの歯で動揺度3に達しており、予想より重度歯周病に罹患している歯が多数認められました。
当初は数回に分けて治療を行う予定でしたが、温存可能な歯がほとんどないと判断されたため、1回の処置で全顎抜歯を実施しました。
まとめ
今回の症例では、口臭や歯みがき時の出血をきっかけに受診されましたが、実際には単純な歯周病ではなく、慢性潰瘍性歯周口内炎が強く疑われる、非常に強い痛みを伴う状態でした。処置当日、口腔内の状態は術前の予想以上に重度で、多くの歯が温存困難と判断されたため、1回の処置で全顎抜歯を行うことができました。
犬や猫では、食欲や普段の様子が保たれていても、口腔内に強い痛みを抱えていることが多くあります。口臭や出血は軽く見過ごせるサインではなく、早めの診察につながる大切な異常所見です。お口の臭い、少しでも気になったら早めの受診をお勧めします。
















慢性潰瘍性歯周口内炎(CUPS:Chronic Ulcerative Paradental Stomatitis)とは
慢性潰瘍性歯周口内炎は、歯の表面についた歯垢(プラーク)に対して口の中が強く反応し、歯ぐきや口腔粘膜に強い炎症や潰瘍を起こす免疫の病気と言われています。
見た目には「歯肉炎がひどい」「歯周病が進んでいる」ように見えても、実際にはそれ以上に強い痛みを伴っていることがあります。
症状としては口腔の痛み、口臭や食欲不振が認められます。食欲が保たれていても、口を触られるのを嫌がる、歯みがきを嫌がる、片側だけで食べる、顎が震えるなど、痛みを示すサインがみられることがあります。また、歯に接する頬や唇の内側の粘膜が赤くただれたり、出血したりすることもあります。このため、ほとんどの症例で歯科検診が難しく、麻酔下検査でようやく口腔内の状況を把握することができます。
治療では、歯石除去や歯面清掃だけでは改善しないことが多々あり、SRPを行った上でホームケアを徹底して貰うのは大前提で、内服薬を併用したり、今回のように全顎抜歯が必要になるケースも少なくありません。
出典:小動物の実践歯科学 緑書房