今回は、4歳のミニチュアダックスフンドの男の子、体重8kgの症例です。
「右上の奥歯が欠けてしまった」とのことで来院されました。
ご自宅では鹿の骨を与えていたとのことで、いつ欠けたのかははっきりわからない状態でした。
歯磨きは週に2回、歯ブラシとガーゼを使ってなんとか頑張ってるそうです。
歯科検診
108に歯髄の露出を伴う複雑破折が認められ、208にも一部欠けている所見がありました。一方で、お口全体としては歯石もほとんどなく、歯肉の状態も比較的良好でした。
切歯の歯間乳頭がわずかに丸くなっていたこと、106の歯肉が少し下がっていたこと以外は、見た目には大きな歯周病を疑うような状態ではありませんでした。
108は複雑破折により歯髄が露出していたため、治療の選択肢として抜歯または根管治療をご提案しました。
飼い主様にはそれぞれの治療についてご説明し、今回は歯を残す治療として根管治療を選択されました。
根管治療を行うメリットとして、特に本例は若いということ、また、もっとも大切な歯である上顎第四前臼歯を残せるというものがあります。この歯は複根歯かつ歯根も大きいため、抜歯を行う場合に歯冠分割、歯槽骨の切削が必要で外科的侵襲の大きい処置となります。今回のように破折からの経過が比較的短く、歯周組織や歯根周囲の状態から保存可能と判断できる場合には、根管治療を行うことで歯の機能を温存しつつ、小さな穴を開け、歯内部での治療のみで完結する非常に低侵襲な処置で済むことが大きなメリットです。




麻酔下検査・処置
108は露髄が認められ、208は認められませんでした。どちらも根尖周囲の透過性は認められませんでした。このため108は予定通り複雑破折のため根管治療を行い、欠けが見られた208は単純破折だったためレジン充填で保護しました。
歯科検診で歯周炎が疑われた部分はやはり、歯周ポケットが3mmを超え、骨吸収も認められたため、予定通りSRPを行い、歯周ポケット内や歯根表面の清掃を行いました。




まとめ
今回は、鹿の骨のような硬いものを噛んでいたことがきっかけとなり、奥歯が割れてしまった症例です。
硬いものを噛むことは、歯の表面が少し欠けるだけでなく、今回のように歯髄が露出するほど深く割れてしまうことがあります。
歯髄が露出すると激しい痛みはもちろん、細菌感染が起こり、歯が失活してしまうことがあります。
一度感染や壊死を起こした歯髄は、元の状態へ戻ることはありません。
そのため、抜歯を行うか、歯を残すために根管治療を行うかの二択となります。感染が進行すると、根尖周囲に感染病巣ができ、口の中や皮膚に膿の出口ができる内歯瘻・外歯瘻につながるため、放置はあり得ません。
また、「硬いものを噛ませると歯がきれいになる」と思われることもありますが、硬すぎるものは歯を守るどころか、歯を失ってしまう原因になることがあります。今回の子は、歯周病予防として固いものを与えていましたが、歯周炎になっている部位が確認されました。このように硬いものだけでは予防はできません。硬いものに頼らず、適切な歯磨きでお口の健康管理をしましょう。