今回は、約11歳の雑種猫ちゃんの症例です。
約1年前から、犬歯から奥歯にかけて口腔粘膜の赤みがあり、口元を触ると怒る様子がみられていました。かかりつけの先生のもとで、抗菌薬やステロイドの注射による内科治療を行い、その後も痛みや食欲低下がみられるたびに、月に1回ほどのペースで注射による治療を継続していました。
また、途中から口腔ケア用のサプリメントやオーラルケア製品も使用されていました。
しかし、いろんなサプリメントを使用しても十分な効果は得られず、症状は悪化する一方でした。
来院の約4ヶ月前には、かかりつけ病院で歯石除去も実施されています。
その後も抗生剤、ステロイド注射(デポメドロール)を継続していましたが、口の痛みと食欲低下は続いていました。
このように手術前に長期間の内科治療を受けていた口内炎の猫ちゃんが、かかりつけの先生より、より詳しい評価と治療を目的に当院へご紹介いただきました。
歯科検診
来院時には、ごはんを食べる時に鳴いてしまうほど口の痛みがある状態でした。
さらに、十分に食べられない状態が続いたことで体重も大きく減少しており、元気さがなくなるといった全身状態にも影響が出始めていました。
口を触ろうとすると強い痛みがあり、口腔内を確認することも困難でした。
また、この症例は猫エイズウイルス、猫白血病ウイルスの両方が陽性であり、口腔内の炎症が治りにくい背景も考えられました。
麻酔下検査・治療
麻酔下で口腔内を詳しく確認すると、口腔粘膜は全体的に赤く腫れ上がり、口の中の広い範囲に潰瘍ができていました。さらに、歯が大きく揺れているわけではありませんでしたが、歯肉は下がり、歯周病が進行している部位がみられました。
この状態では、歯石を取るだけでは痛みの原因を取りきることは難しく、口腔内の炎症をコントロールする目的で全顎抜歯を行いました。
もともと1本欠歯があったため、今回は計29本の抜歯を行っています。
また、術後しばらくは自力での食事が難しい可能性があったため、同時に食道チューブを設置しました。
食道チューブは、口から食べられない時期でも必要な栄養やお薬を入れるための大切なサポートになります。
術後経過
術後2週間は、抜歯部位の治癒を考慮してステロイドを休薬し、鎮痛剤を使いながら経過をみていました。口から食べることはできず、チューブからの栄養補給が続き、痛み止めが切れると元気がなくなる状態が続きました。
2週間経ち、鎮痛剤を終了してプレドニゾロンを開始したところ、翌日に術後初めて自分の口からちゅ~るを食べてくれました。プレドニゾロン開始後からは元気も少しずつ戻ってきました。
術後1ヶ月ではウェットフードを食べられるようになり、少しずつ体重も増え始めました。
しかし、プレドニゾロンを一度休薬すると再び元気が落ちてしまったため、再開しています。
術後2ヶ月の時点では、まだカリカリは食べられないものの、それ以外は元の様子に近づいてきているとのことでした。もう一度プレドニゾロンの休薬を試してみるところです。
まとめ
今回の症例では、口の痛みによって十分な食事が取れず、体重が大きく減少するほど全身にも影響が出ていました。
猫ちゃんの口内炎は、全顎抜歯によって炎症の原因を減らすことは大切な治療の一つです。ステロイドによる長期内科治療を受けた症例は、術後の回復や炎症コントロールに時間を要することもあり、内科治療はあくまでも外科までの繋ぎで、なるべく早期の外科的介入が成書では勧められています。特に、デポメドロールといった強力なステロイドを長期投与することによって、糖尿病だけでなく副腎の萎縮といった合併症が生じ、離脱症状が発現してしまうことが考えられます。
今回の症例も、長期間にわたりデポメドロール注射が継続されていた症例であり、抜歯をすればすぐにすべて解決する、という単純なものではありませんでした。術後2週以降でプレドニゾロンの内服を開始したところ、症状の改善が見られたため、離脱症状が起きていたと考えられました。
また、食道チューブを設置していたことで、痛みの原因となる歯や口腔内の炎症をできる限り減らしたあと、栄養補給や投薬管理が確実に可能であり、十分な管理が行えたため、少しずつ食べられる状態に近づいてくれました。
「食べている時に鳴く」
「口を触られるのを嫌がる」
「食欲が落ちてきた」
「歯石取りをしたのに痛みが続いている」
このような様子がある場合、単なる歯石や歯周病だけでなく、強い口内炎が隠れていることがあります。
猫ちゃんは口の痛みを我慢してしまう子も多いため、気になる症状がある場合は早めの歯科診察をおすすめします。また、尾側口内炎と診断された場合は、内科治療のみで解決しようとせず、早期の手術をおすすめします。








