
今回ご紹介するのは、16歳、避妊済みメスで3.8kgのトイプードルの子です。
3月末頃から左目の下がじゅくじゅくしていることに気づき、ご来院されました。
かかりつけの病院では抗生剤による治療を受け、一度はかさぶたになったものの、「歯が原因だろう」と言われていたそうです。
普段からお口を触ることはできましたが、歯磨きをしようとすると痛がる様子があり、ご自宅でのケアは難しい状態でした。
また、この子は腎臓のお薬を服用中で、ご家族も麻酔について心配されていました。
当院で歯科検診を行うための術前検査を実施したところ、血液検査では大きな異常は認められませんでした。しかし、胸部レントゲン検査で肺に腫瘍性病変が見つかりました。
その後、大学病院で詳しい検査を受けていただいた結果、肺原発の腫瘍である可能性が高いとの診断でした。
幸い、咳や呼吸困難などの症状は認められず、日常生活にも大きな支障はありませんでした。
ご家族とも相談した結果、現在の生活の質を維持するため、まずは痛みや感染の原因となっている歯の治療を優先することになりました。
歯科健診
歯科健診では全体的に歯石の付着が多く認められました。
特に左上の奥歯(208)は破折しており、目の下のじゅくじゅく、眼窩下膿瘍の原因として強く疑われました。
また、右上の切歯(103)には大きな動揺も認められました。
ただし、左眼窩下膿瘍が、どの歯が原因によるものかは外からの検査だけでは判断できませんでした。
さらに、高齢であることや軽度の腎機能低下があること、肺腫瘍が見つかっていることを考慮し、今回は麻酔時間をできるだけ短くしながら必要な治療のみを行う方針となりました。
麻酔下検査・処置
全身麻酔下で歯科レントゲン検査を行ったところ、目の下の感染に関連していると考えられた左上の奥歯(207〜210)は、いずれも重度の歯周病変や根尖部病変が認められました。
どの歯が責任病変なのかを明確に特定することは困難でしたが、感染源を確実に除去するため、207〜210を抜歯することにしました。
また、術前から大きな動揺が認められていた103も抜歯を行いました。
その他にも歯周病が進行している歯は認められましたが、今回の目的は感染源の除去と痛みの軽減です。
高齢で基礎疾患もあることから、麻酔時間を延長して広範囲の処置を行うのではなく、優先順位の高い歯のみを治療する方針としました。
残った歯についてはスケーリングと研磨を実施し、処置を終了しました。
麻酔時間は約1時間20分ほどで終了し、覚めも早く、経過は良好でした。
まとめ
「16歳だから麻酔は無理」
そう思われる飼い主さんも少なくありません。もちろん高齢になるほど麻酔のリスクは高くなる傾向があります。しかし実際には、年齢だけで治療の可否が決まるわけではありません。
今回のように、高齢であっても事前検査を行い、現在の体の状態を評価した上で、治療内容や麻酔時間を調整することで安全性を高められる場合があります。
また、歯の感染や痛みを抱えたまま過ごすことも、生活の質を大きく低下させる原因になります。
もうひとつ大事なこととしては、麻酔下の口腔内検査によって治療を最終決定しますが、予想外の病気が発見されることが多くあります。今回も、抜歯は1本の予定で1時間以内に治療を終える予定でしたが、麻酔下検査で複数本の抜歯の必要性が出てきました。少し予定より麻酔時間が伸びてしまいましたが、必要最低限の治療ということで行わせてもらいました。リスクと治療のバランスを考えてその子に最善のことを常に意識しながら選択することが大切だと思います。




