今回ご紹介するのは、4歳、去勢オスのメインクーンの猫です。 約1年半前から歯肉炎を指摘されており、自宅では週5回程度クロルヘキシジン液を使用したガーゼケアを継続していました。しかし、歯肉の発赤が改善しないことや口臭が気になること、左側の口腔内を触られることを嫌がるようになったことから歯科検診を希望され来院されました。

○歯科健診

初診時の口腔内検査では、犬歯および臼歯を中心に歯肉の発赤と腫脹が認められました。特に左側の臼歯部では疼痛を疑う反応もみられ、重度の歯周病や吸収病巣など、見た目だけでは分からない病変の存在が疑われました。

飼い主様としては、できる限り麻酔処置や抜歯は避けたいというお気持ちでした。しかし、見た目の検査だけでは病変の進行度や歯を保存できるかどうかを正確に判断することはできません。

そこで、まずは麻酔下で口腔内全体の評価を行い、その結果をもとに必要最小限の処置を実施する方針としました。

○麻酔下検査

麻酔下検査では、複数歯において歯周ポケットの深部化が認められ、歯科レントゲンで左下顎臼歯に吸収病巣が認められたほか、左下顎臼歯の歯根周囲には白くモヤがかかり、細菌感染、骨髄炎を疑う所見が認められました。歯根周囲へ細菌感染が波及している可能性が高く、歯周ポケットの深部化も伴っていたことから、長期的な保存は困難と判断しました。

麻酔下検査後、飼い主様と再度相談を行い、最低限の抜歯と歯周病治療を実施する方針となりました。

初回処置では、吸収病巣および骨髄炎が疑われた左側を中心に抜歯を実施しました。しかし、処置中は出血量が多く、このまま予定していた全ての抜歯を行うと麻酔時間の延長が予想されたため、安全性を優先し、右側はスケーリングおよびルートプレーニング(SRP)のみ実施して処置を終了しました。

約1か月後に再度麻酔下で口腔内評価および追加処置を行いました。 再評価時には歯周ポケットおよびBOPは著しく改善しており、初回麻酔時には抜歯適応と判断していた歯の一部についても保存可能と判断されました。その結果、当初予定していた12本の抜歯ではなく、計8本の抜歯で管理することができました。

○まとめ

今回の症例では、歯肉炎が長期間改善しない背景に、吸収病巣に加えて歯根周囲へ細菌感染が波及し、骨髄炎を引き起こしている可能性がありました。

重度の歯周疾患によって細菌感染が歯根周囲へ波及すると、骨髄炎を発症してしまうことがあります。骨髄炎まで進行した場合には、保存療法での治療は困難になる場合が多く、外科的介入と長期の抗生剤投与が有用とされています。

一方で、適切な歯周病治療によって炎症が改善すると、当初は抜歯が必要と判断した歯でも保存できる可能性があります。今回の症例でも、初回処置後に歯周ポケットおよびBOPが著しく改善したことで、当初予定していた12本ではなく、計8本の抜歯で管理することができました。

今後はご自宅でのブラッシングをこれまで以上に継続していただくとともに、約6か月ごとの麻酔下メンテナンスを行い、残存歯の長期的な維持を目指していく予定です。

歯肉の赤みや口臭が長期間改善しない、もしくは悪化して痛みが出てきているといった場合には、見た目だけでは分からない病変が隠れていることがあります。麻酔下での口腔内検査や歯科レントゲン検査を行うことで、残せる歯と抜歯が必要な歯を適切に見極めることにつながります。