今回は 7 歳、7 kg のダックスフンド、去勢済みの男の子です。

診察の約 1 週間前に、左上顎第 4 前臼歯(208)が折れていることに気づかれました。いつ折れたのかははっきりしておらず、他院を受診し、抗生剤と痛み止めの処方を受けた後、歯科診察のため来院されました。

○歯科検診

口腔内を確認すると、208 は歯の内部にある神経(歯髄)が露出する「複雑破折」を起こしていました。

また、切歯と犬歯には歯肉炎が認められ、口腔内全体としてプラークの付着が多い状態でした。

208 は食べ物を噛み切る際に重要な「裂肉歯」と呼ばれる歯です。飼い主様から「できれば歯を残してあげたい」とのご希望があり、ご自宅で歯磨きもできるとのことだったため、麻酔下で詳しく検査したうえで、保存が可能であれば根管治療を行うこととしました。

○麻酔下検査・処置

全身麻酔下で歯周ポケットの測定と歯科レントゲン検査を行いました。

全体的に歯周ポケットが深くなっているところはなく、BOP も 20%程度でした。歯科レントゲン検査でも、歯の根やその周囲の骨に大きな問題は認められず、全体として歯を残していける状態であることが確認できました。

一方で、プラークの付着は多く、切歯や後臼歯には歯肉の中にも歯石(縁下歯石)が認められました。そのため、歯の表面と歯肉の中に付着した歯石を除去するスケーリングを行いました。

破折していた 208 についても、歯科レントゲン検査で歯根やその周囲に治療方針を変更するような大きな問題は認められなかったため、予定通り根管治療を行い、歯を残しました。

○まとめ

今回も、硬めのガムを食べていたとのことでした。208 は食べ物を噛み切る際に重要な「裂肉歯」と呼ばれる歯です。今回はレントゲン検査でも大きな問題は認められず、ご自宅で歯磨きもできるとのことだったため、飼い主様と相談のうえ、抜歯ではなく根管治療を行い、歯を残すことにしました。

また、今回は歯肉の中にも歯石が付着していましたが、歯周病が進行して歯の根が露出している状態ではありませんでした。そのため、歯肉の中の歯石を除去し、今後は毎日の歯磨きでプラークの付着を抑えていくことが大切になります。

飼い主様からは「ガムを与えるようになって歯石が減った」とのお話もありました。確かに、噛むことで歯垢の付着を抑えることを目的としたデンタル製品もあります。しかし、硬すぎるガムや鹿の角などは、噛んだときに歯へ強い力がかかり、今回のような歯の破折につながることがあります。

歯が割れて神経が露出してしまうと、根管治療か抜歯といった治療が必要となり、歯を失うことにつながります。

口腔内を健康に保つために最も大切なのは、硬いものを噛ませて歯石を落とすことではなく、日々の歯磨きによってプラークを取り除くことです。

市販されているデンタルケア用品であっても、「売っているから歯に安全」とは限りません。ガムや鹿の角など、あまりに硬いものを与えることは避け、毎日の歯磨きを中心にお口のケアを続けていきましょう。