今回の症例は 13 歳の避妊済み、2.8kg の雑種の猫ちゃんです。3 年前から口内炎の治療を続けており、内服薬や注射で症状をコントロールしていました。しかし、最近では薬を使用しても痛みが十分に改善せず、痛みのため押し入れに隠れてしまったり、何もしていなくても突然「ギャッ」と鳴く様子がみられるようになりました。また、食事量の低下とともに体重も減少し、寝ている時間が増えるなど、生活の質(QOL)の低下が認められました。

○歯科検診

左下顎切歯に歯肉炎、右上犬歯周囲に強い発赤を認め、口内炎による疼痛が疑われました。さらに、臼歯全体には重度の歯石が付着し、左上顎臼歯では歯肉退縮も認められました。この時点では、尾側口内炎に加えて歯周病の併発が疑われたため、全臼歯抜歯に加え、炎症の強い 104 の抜歯も含めて検討する方針となりました。

○麻酔下検査・処置

詳細な歯科検査を行ったところ、臼歯全体に重度の歯石沈着と尾側口内炎は認められたものの、歯科レントゲン検査および歯周ポケット検査では、左上顎第 4 前臼歯の歯肉退縮部で根面が見え、歯周ポケットが深くなっていた以外に、歯槽骨吸収や歯牙吸収病巣などの異常は認められず、多くの歯は軽微な歯周炎を起こしている程度でした。

そのため、当初予定していた全臼歯抜歯は見送り、分厚く付着していた歯石を徹底的に除去し、ミノサイクリン軟膏を塗布して今回の処置を終了しました。

○まとめ

食事が十分にできないほど強い痛みがみられていた症例でしたが、麻酔下で精査すると、重度の歯石沈着は認められたものの、歯そのものや歯槽骨には大きな異常はなく、多くの歯は保存可能な状態でした。

猫の慢性口内炎は、細菌プラークに対する過剰な免疫反応をはじめ、ウイルス感染や免疫異常など複数の因子が関与する疾患と考えられており、その病態は現在も完全には解明されていません。そのため、細菌プラークを大きく減少させる目的で抜歯が最も高い治療効果を示すとされています。

一方で、日常的な歯磨きによってプラークを継続的にコントロールできれば、口内炎の改善や再発予防が期待できる症例もあります。

今回は、歯や歯周組織の状態が非常に良好であり、また比較的おとなしい性格で、ご自宅で歯磨きができる可能性があると判断しました。そのため、まずは歯石を徹底的に除去して口腔内環境をリセットし、その後の治療反応を確認する方針を選択しました。

今後、痛みが改善しない場合や、再び強い痛みが出現するようであれば、改めて抜歯治療を検討する予定です。

口内炎では抜歯が最も効果的な治療となる症例が多いことは間違いありません。しかし、すべての症例で最初から抜歯が唯一の選択肢というわけではなく、歯の状態やご家庭でのケアが可能かどうかを総合的に評価し、歯を残した治療で改善を目指せる症例もあります。その子の状態に合わせて、最適な治療法を選択することが大切だと考えています。