今回は 6 歳去勢オスのトイ・プードルの子です。
1 か月ほど前から急に元気がなくなり、他院を受診されていました。診察時にお口を見ようとすると普段以上に嫌がり、フードを噛んだ際に悲鳴をあげるほど痛がったそうです。
鎮痛剤の注射を受けると一時的に症状は改善したものの、その後も食欲にムラがあり、元気がない日を繰り返していました。
さらに当院へ来院される 2 日前から左上の瞼が腫れてきたとのことでした。実は 1 か月前にも今回ほどではないものの同じような腫れがあったそうです。
○歯科健診
全体的に歯肉の色は悪く、特に上顎の前歯では歯肉が大きく下がり、歯根がかなり露出している状態で、5 本は抜歯が必要であると判断しました。
また、206,207 は欠けが認められ、208 の単純破折も確認されました。
ただ、飼い主様がお話しされていた
「フードを噛んだときに悲鳴をあげる」
という症状と直結するような病変は、この段階でははっきりとは見つかりませんでした。
左上の瞼の腫れについては眼科専門医による診察も行い、眼瞼炎と診断され、点眼薬と内服薬による治療を開始しました。しかし、この時点では目の症状と歯の病気との関連ははっきりしませんでした。
○麻酔下検査・処置
全身麻酔下で検査を実施すると、覚醒下では分からなかった多くの問題が見つかりました。まず、覚醒下で確認していた以上に重度の歯周病が進行しており、プロービングだけでも強い痛みを伴う状態でした。
さらに驚いたことに、歯周ポケットを検査していると、中から多数の草の種が出てきました。外から見るだけではわからない異物が入り込んでいたのです。
最終的に、上顎切歯のみではなく、歯周病が進んでしまって保存が難しいと判断された 18 本の歯を抜歯し、なんとか残すことができるだろうと判断した歯については 15か所の SRP を行いました。
○術後の様子
術後 10 日目の再診時には、元気がない様子はなくなり、口を痛がる様子も見られなくなっていました。
歯周病では悲鳴を上げるような痛みを生じることはあまりないので、はっきりとは言えませんが、術後改善していることから草の種といった異物が今回の痛みの原因であった可能性が高いと考えられました。
目の腫れについては点眼治療で早い段階から改善していましたが、飼い主様によると目やにも以前より減っていたそうです。
今回の目の症状が口腔内の炎症と直接関係していたかどうかは断定できません。しかし、口腔内の慢性的な炎症や痛みが改善したことで全身状態にも良い変化が現れた可能性は考えられます。
○まとめ
お口の痛みは、外から見ただけでは「どの歯が痛いのか」、時には「本当にお口の中が原因なのか」さえ、はっきり分からないことがあります。
今回も、覚醒下の歯科健診では強い痛みの原因を特定できませんでした。
しかし、全身麻酔下で歯科レントゲン撮影やプロービングを行ったことで、見た目以上に進行していた歯周病、そして歯周ポケットに入り込んでいた複数の草の種が見つかりました。
鎮痛剤によって一時的に痛みが和らいでも、その原因が残ったままでは、再び痛みが出てしまうことがあります。今回のように草の種が歯肉の中に多数入り込んでいるケースは珍しいものですが、原因が何であっても、まずは「お口の中で何が起きているのか」をしっかり調べることが大切です。
「口を触ろうとすると嫌がる」
「食事を噛むと痛がる」
「食欲にムラがある」
「なんとなく元気がない」
こうした変化の背景に、お口の痛みが隠れていることもあります。
そして、その原因は覚醒下の診察だけでは見つけられないこともあります。
お口の痛みが疑われる場合には、必要に応じて全身麻酔下でレントゲン撮影や歯周病検査までしっかり行い、見た目だけでは分からない部分まで確認することが、痛みの原因を見つけ、根本的な治療につなげるために大切です。












