今回の症例は7歳、14 kgの未去勢の柴犬です。
2か月ほど前から、口をカクカクと動かすような仕草がみられるようになり、受診されました。
寝ている時にもこの動きがみられ、カクカクすることで目を覚ましてしまうこともあったそうです。
一方で、元気や食欲には特に問題はありませんでした。
飼い主さんが撮影してくださった動画を確認すると、この「口をカクカクする動き」は、いわゆるチャタリングと呼ばれる症状でした。
○歯科検診
口腔内を確認すると、ところどころに歯肉炎や歯肉の腫れが認められました。
また、見える範囲だけでも5か所ほど、歯肉が腫瘤状に盛り上がっている部分が確認されました。
しかし、歯肉がこのように盛り上がって見える場合でも、
- 炎症によって歯肉が腫脹している
- 何らかの刺激によって歯肉が過形成を起こしている
- 歯の吸収病巣があり、その部分に肉芽組織ができている
- 腫瘍性の病変がある
など、さまざまな可能性があります。
これらは外から見ただけでは区別できないことがあります。
また、歯肉炎は認められたものの、歯肉が大きく下がっているような明らかな変化はみられず、覚醒下でチャタリングの原因を特定することは困難でした。
今回のチャタリングには、歯や口腔内の痛み・違和感が関係している可能性も考えられたため、全身麻酔下で詳しく検査し、必要な処置を行うことをご提案しました。
○麻酔下検査・処置
幸い、心配していた歯の吸収病巣は認められませんでした。
また、複数みられていた歯肉の隆起についても、見た目としては歯肉の過形成を疑う所見でした。
ただし、外観だけでは確定できないため、念のため切除した組織を病理検査へ提出しています。
一方で、詳しく検査したことで、覚醒下では分からなかった歯の異常が見つかりました。
409・410はプロービングを行った際に歯周ポケットが深くなっており、呼吸数が跳ね上がり、かなりの侵襲反応が見られ、歯科レントゲン検査では歯根周囲の骨吸収所見が認められました。
特に409では、骨吸収像が根尖部周囲まで及んでおり、歯髄の失活も疑われる状態でした。
また、左下の310については歯周ポケット自体はそれほど深くありませんでしたが、歯科レントゲン検査では歯周病による骨吸収が認められました。
そのため、今回は409・410・310の抜歯を行いました。
今回、特に印象的だったのが処置中の反応です。
409・410もですが、309の遠心側でも、局所麻酔を行っていたにもかかわらず、SRPを行った際に、侵襲刺激に対する強い反応が認められました。
麻酔中の反応だけから「ここがチャタリングの原因だった」と断定することはできません。
しかし、今回問題がみつかった部位に痛みや強い違和感が生じていた可能性を示唆する所見のひとつではありました。
○まとめ
歯肉が盛り上がって見える場合、その原因が吸収病巣に伴う肉芽組織なのか、炎症による増生なのか、過形成なのか、あるいは別の病変なのかを、外見だけで判断することは難しい場合があります。
今回の症例ではチャタリングという症状がみられており、口腔内の痛みや違和感が関係している可能性が考えられていました。
しかし、覚醒下では歯肉炎は認められたものの、腫瘤の他は歯肉が大きく下がっているような明らかな変化などはみられず、原因を特定することは困難でした。
また、覚醒下での診察では、咬み合わせや口を開けられる範囲などの影響から、すべての歯を十分に観察することが難しい場合があります。
今回も309や409は上顎の歯に隠れる位置にあり、覚醒下では十分に確認することができませんでした。
実際に、全身麻酔下で歯周ポケットの検査や歯科レントゲン検査を行って初めて、409・410の深い歯周ポケットや歯根周囲の骨吸収、409の歯髄の失活を疑う所見が明らかになりました。
口の中の病変は、覚醒下で見える範囲だけでは分からないことがあります。
口をカクカクさせる、顔まわりを気にする、口を触られるのを嫌がるなど、いつもと違う症状が続いている場合は、様子を見過ぎず早めにご相談ください。
診察だけでは原因を特定できない場合には、必要に応じて全身麻酔下での詳しい口腔内検査や歯科レントゲン検査を行うことで、初めて原因となる病変が見つかることがあります。









